相続税の節税目的の養子縁組が有効かどうかが争われた訴訟の上告審判決で、
最高裁第3小法廷は、「節税目的の養子縁組でも直ちに無効とはいえない」と
の判断を示しました。
今回の訴訟のケースでは、亡くなった男性の法定相続人は、長男と娘2人の
3人でしたが、長男の息子である孫と養子縁組したため、法定相続人は4人に
増えました。
養子縁組(法定相続人増加)による節税効果の一例は下記の通りです。
財産総額3億円 配偶者なし 子供3人の場合 相続税額(総額)約5,460万円
財産総額3億円 配偶者なし 子供4人の場合 相続税額(総額)約4,580万円
※財産総額が多いほど、節税額は多くなります。
節税そのものについては、訴訟を起こした娘2人も恩恵を享受できるため、
悪いことではありませんので、問題の本質は、遺産分割にあると思います。
孫を養子縁組したことにより、長男及び娘2人の法定相続分は3分の1から
4分の1に減少します。しかし、男性が亡くなった時点で、養子縁組した孫は
幼児であり、娘2人には、長男の法定相続分が2分の1に増加したとの解釈に
なるのでしょう。
一般的に、遺産分割は、相続人間の話し合いで決めるものであり、法定相続分
通りに分割する必要はありません。しかし、法的に有効な遺言書が存在する場合、
その内容次第で、法定相続分が大きな意味を持ってきます。
遺言書に記載されるような内容ではありませんが、仮に、遺産分割について、
長男は8分の6、娘は各8分の1とする旨の記載があったとします。その内容に、
娘2人が納得できなかったとしても、娘2人の遺留分(法定相続分の2分の1)を
犯していないため、その遺言書が法的に有効であれば、娘2人は従うしかありません。
しかし、養子縁組が無効であると認められれば、娘2人の遺留分は6分の1となるため、
遺留分減殺請求を行うことが可能となります。
今回の最高裁の判断により、当事者に養子縁組の意思があれば、それが節税目的で
あったとしても有効と判断される可能性が高くなったといえ、今後、節税目的の
養子縁組が増加するかもしれません。
養子縁組は、相続税の節税対策になる一方で、争族の火種となる恐れがありますので、
養子縁組を行う場合は、公正証書等、法的に有効な遺言書を作成頂く必要があるかもしれません。