各都道府県は9月18日、平成30年の都道府県地価調査(7月1日時点)の結果を発表しました。特徴的なところとしては全国平均が全用途で27年ぶりに下落から上昇したこと、地方圏の上昇地点が増加傾向にあり、特に札幌・仙台・広島・福岡の地方中核都市4市の上昇率が東京・大阪・名古屋の三大都市圏を上回ったことなどが挙げられます。

今回の地価調査の結果について個人的に感じたことを雑感という形で記したいと思います。


<テレビでの報道>

結果が公表された18日の夜、NHKの「ニュースウオッチ9」とテレビ朝日系の「報道ステーション」を視聴していたのですが、前者では『鍵は“地方”背景に何が?』というタイトルで番組前半に比較的大きく扱っていた一方、後者では全く扱っていませんでした。確かにセンセーショナルというよりは地味な経済ニュースですが、両番組の報道スタンスの違いを感じました。


<インバウンドと災害リスク>

今回の結果を取りまとめた国土交通省によると商業地の地価が上昇傾向にあることの背景の一つとして外国人観光客の増加等による店舗、ホテル需要の高まりということを挙げています。特にインバウンドが好調な大阪では、外国人観光客が殺到するミナミ(戎橋近くのクリサス心斎橋、1㎡あたり1680万円)がオフィス中心であるキタの最高価格地点(グランフロント大阪、1㎡あたり1620万円)を上回りました。これは1月1日時点の地価公示に引き続いてのことです。一方、今回の地価調査の基準日は7月1日ですので9月になって見舞われた関西の台風21号による被害や北海道での地震の影響は反映されていません。特にタンカーの衝突により連絡橋が損傷し国外からの旅行客を含む多くの人々が取り残された関西国際空港のニュースは海外でも大きく報道されたようです。今後、ネガティブなイメージが広がりインバウンドが失速するようなことになれば地価に影響を与える可能性もありそうです。


<スルガショックと収益物件マーケット>

「かぼちゃの馬車」という投資用シェアハウスを運営していたスマートデイズという不動産会社の経営破綻に端を発し、スルガ銀行の乱脈ともいえる融資スキームが白日の下に晒されました。賃貸条件表や契約書の偽造、預金残高の改ざんがまかり通り、ターゲットにされたのは比較的高年収の「サラリーマン大家」たちでした。筆者も都道府県地価調査の鑑定評価員を拝命しており名古屋市内のある区の売買事例をウオッチしていたのですが、こうしたサラリーマン大家さん向けの収益アパートの取引を多く目にしました。そのいずれもが売買価格の総額から建物価格を差し引いた土地価格は近隣相場の水準からは説明がつかないような極めて高値での取引でした。ここでは詳しくは書きませんが、サラリーマン大家さんたちはたっぷり転売益などが乗せられた価格で物件を掴まされているので当たり前といえば当たり前なのですが…。

では、スルガスキームが破綻した今、収益物件のマーケットは低迷しているのかといえばそうではなく、相変わらず収益物件の価格は高止まりしている、というのが率直な感想です。スルガスキームについては本来手を出すべきではない人たちを煽ったという面が強く、「買える人たち」は物件を吟味しつつ買えるときを虎視眈々と狙っている、という状況ではないでしょうか。

 

都道府県地価調査の鑑定評価員は地価公示の鑑定評価員も兼務しており、来年1月1日時点の地価公示に向けた作業を既に開始しています。個人的には災害リスクの地価への影響と金利動向を注意深くウオッチしていく必要があると思っています。

平成30年地価調査の結果(国土交通省)
『鍵は“地方”背景に何が?』(NHK ニュースウォッチ9)