名古屋の中心部、栄にある百貨店「丸栄」の親会社である興和は、同百貨店を閉店して建物を解体し、2020年をめどに新しい商業施設を開く方針であるとの報道がなされました。名古屋の主要な百貨店である松坂屋、名鉄百貨店、丸栄、三越、タカシマヤの頭文字からとった「4M1T」の一角が消滅することになり、地元では驚きをもって受け止められたようです。
報道によると、現在の丸栄と広小路通を挟んで北側の「ニューサカエビル」や「栄町ビル(名古屋国際ホテル)」が存する街区を一体開発する方針であるものの、一部地権者と折り合いがついていないため、丸栄のある街区を先行して再開発するとのことです。東京・赤坂にある「東京ミッドタウン」のような複合型商業施設をイメージしており事業費が2,000億円規模の巨大プロジェクトとなる見通しとのことです。
ところで、この再開発を行う興和という会社ですが、一般的には「コルゲンコーワ」や「キャベジンコーワ」、最近では「バンテリン」に代表されるカエルのマスコット(ケロちゃんコロちゃん)で有名な薬品会社というイメージが強いですが、実はそれだけではなく、観光スポットの展望台に置いてあるような双眼鏡を作っていたり総合商社としての機能を有していたりと様々な事業を展開している企業です。本社を置く名古屋では丸栄を始め、名古屋観光ホテルの親会社であり、ウェスティンナゴヤキャッスルなどを運営するナゴヤキャッスルの筆頭株主であるなど地元経済界において極めて重要な地位を占めています。
2,000億円という事業費ですが、名古屋ではJRセントラルタワーズや今後行われる名鉄・近鉄名古屋駅の再開発の事業費に匹敵する規模であり、東京と比べても六本木ヒルズの総事業費約2,700億円には及ばないものの東京都庁の建築費約1,600億円(当時)を上回っており、地方都市である名古屋においては如何に規模が大きいかということがわかります。
非上場企業であり長期的な視点で再開発に取り組める興和といえども連結売上高約3,500億円の同社にとって単独で2,000億円規模の投資は無理があることから他社と組んで事業を行うことになるのでしょうが、三菱地所や三井不動産、日本郵政など東京資本の存在感も目立つ名駅地区に対して、今のところ東京資本の進出があまり見られない栄地区で興和がどのような資本を引き入れるかについても注目が集まりそうです。
さて、興和がお手本にしようとしている「東京ミッドタウン」ですが、三井不動産が防衛庁跡地で手掛けた再開発プロジェクトで今から10年前の2007年に開業しました。オフィスビルやホテル(ザ・リッツ・カールトン東京)、高級サービスアパートメント、美術館(サントリー美術館)などで構成される複合施設であり、敷地面積だけで約68,900㎡という規模を誇ります。一方、地図上の概測になりますが、栄の方は、現丸栄の敷地部分が約5,000㎡、ニューサカエビルや栄町ビルのある街区が約6,500㎡(興和の所有になっていない安藤証券の敷地も含む)であり、両街区を合わせても約11,500㎡であり、敷地規模の面では東京ミッドタウンには遠く及びません。同じく三井不動産が日比谷で手掛けている「東京ミッドタウン日比谷」(2018年3月開業予定)の敷地規模が約10,700㎡ですので規模としてはこちらの方が近くなります。ただし、栄は街区が2つに分かれていることから、大阪・中之島の「中之島フェスティバルタワー」のようなツインタワーになる可能性が高いのではないでしょうか。
ただし、順調に再開発が進んでいくのかという点については、個人的には少し懸念しています。まず、栄地区においては同時期に中日ビルの解体・再開発も予定されています。規模としては丸栄の再開発に近い規模になるものと思われますが、栄地区が両再開発による店舗面積の増加をすんなりと吸収できるのかという点です。また、地区間競争という点では、金山地区の台頭というのも栄地区にとっては脅威になります。金山地区では、日本特殊陶業市民会館やアスナル金山の再開発が控えており、セントレアや自動車産業の拠点である西三河地区へのアクセスの良さから今後、金山地区のポテンシャルが上昇し、栄地区の相対的地位がさらに低下してしまう可能性もないとはいえません。当然、2020年以降、東京オリンピックという一大イベントが終了した後どうなるかわかならいマクロ経済の影響もそのまま受けるでしょう。果たしてどうなっていくのでしょうか。
なお、名古屋ですが、都市の経済規模の割にはラグジュアリーホテルが少なすぎると思っている方は多いのではないでしょうか。丸栄や中日ビルの再開発や名鉄・近鉄名古屋駅の再開発で建つビルにリッツ・カールトンやペニンシュラといった外資系のラグジュアリーホテルは進出するのでしょうか。また、東京や大阪と比べると名古屋には美術館や音楽ホールといった文化的な施設が少ないと思われるので再開発によってこれらの施設が名古屋にも増えることを期待したいと思います。
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