1月20日、ドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ大統領に就任しました。就任演説でトランプ新大統領は「米国第一主義」を掲げ、保護主義的な政策を推進することを明確に打ち出しました。一方、トランプ新大統領のこれまでの女性蔑視発言などに抗議する反トランプデモも世界中に広がりを見せており、首都ワシントンなどではデモ隊の一部が暴徒化する事態もみられ、世界は再び混沌とした時代に入っていくのでは、と不吉な思いにとらわれた方も多いのではないでしょうか。

 混沌とした時代、といえば思い出すのが今から10年前の2007年のことです。当時の日本の不動産市場は、不動産の流動化を促進する法令が2000年代初頭に整備され、不動産証券化市場が一気に膨らんだことにより収益物件を中心に不動産価格が高騰、“ミニバブル”といわれるような状況にありました。しかし、アメリカでは、夏ごろからその後の世界金融危機の発端となるサブプライムローンの信用不安が顕在化し、ミニバブルを支えていた海外からの資金が引き上げられ、日本においても不動産価格の上昇がピークを迎えます。その後、2008年9月にはアメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズが約64兆円の負債とともに破綻、世界金融危機は重大な局面を迎えます。金融不安によるドル安により円が上昇、製造業を中心とした日本の輸出産業は大打撃を受けるなど、金融危機が実体経済にも影響を及ぼした形となり、日本経済は深刻な景気後退局面に転じました。負の連鎖は当然のことながら不動産市場にも及び、証券化を行っていた不動産ファンド会社が数社破綻、市場からはプレイヤーが消えた、といわれるような状況に陥りました。

 その後、アベノミクス政策や歴史的な金融緩和により資金が日本の不動産市場にも再び流れ込み、2017年初頭の現時点においては、日本国内の不動産市場は、一部指標がリーマン・ショック前を上回るなど、やや加熱とも思われる状況にあります。

 アメリカの保護主義的な政策が過度に強まれば、むしろアメリカの景気が後退し、円高が進む可能性も考えられます。また、アメリカの内向きな姿勢は、地政学的なリスクを顕在化させ、紛争を頻発させるリスクをも孕みます。そうなればリーマン・ショック級の危機が世界を再び覆わないとも限りません。トランプ大統領の就任により、世界はこれまで経験したことのない局面に入っていくのではないでしょうか。後から考えると、サブプライムローンの信用不安が騒がれ始めたときのように、あのときが潮目の変化だった、ということになるのかもしれません。

 いずれにしても、今後の世界情勢は日本の不動産市場にもより直接的に影響を与えることが考えられます。慎重に注視していく必要がありそうです。